東大生になったけれど

私は上京した。

受験まで一度も東京に来たことがなかったため、全てが新鮮だった。

だが、本当は不安の方が大きかった。

自分は今までは、生活面がだらしなくても、勉強ができるということで皆にアピールすることができた。

しかし、東大生は皆勉強ができる。私には皆に誇れる取り柄がなかった。

私は劣等感に苛まれた。

 

授業に出ても、講師の言うことが難しくて聞き取れなかった。

目も悪いため、ノートに黒板の板書が書き写せなかった。

そうして、どんどん授業が分からなくなっていった。

完全に落ちこぼれてしまった。

 

私はそのうち、授業に出なくなった。

授業に出ても、どうせ分からないからだ。

だが下宿をしていた家の奥さんが厳しい人だったため、仕方なく毎朝、家を出た。

下宿を出ても授業に出るのが億劫だった。

毎日、歩いて渋谷まで行った。

大きな書店があり、そこで本を立ち読みした。

そして、ゲーム店に行った。ブロック崩しやらインベーダーゲームやら。

腕前は超一流になった。

それから向かうのはパチンコ屋。当時はまだ手打ちが主流だった。

負けることが多かった。これでもか、これでもかと100円玉をつぎ込んでは玉を小出しに買うが、玉はチューリップには入らず、消えていった。

親からの仕送りはある程度あったが、毎月お金を使い果たしそうになり、そうなった時はほとんど飲まず食わずで過ごした。

 

私は授業にほとんど出ないおかげで、前期試験はひどい成績をとった。

いくつかは単位を取り落とし、留年をする可能性もでてきた。

大学入学前に持っていた希望は失せた。ノーベル賞など夢のまた夢だということが分かった。

 

ああ、自分はいったい何をやっているんだろう。

そう思いはするものの、身体がいうことをきかなかった。

堕落した生活は改まらなかった。

これが田舎で秀才と呼ばれた男の末路だった。