医師の研究者ってズルい?

私が先日、出席した学会では、研究者に留学を勧めるセッションがあった。

学術振興会の特別研究員とか、ヒューマンフロンティアとか、その他財団から奨学金をもらえれば、何とか自分の腹をいためずに留学できる。

そうして進んだ海外の研究室で大いに自分を磨くのはいいと思う。

楽しく、夢が広がる。

 

だが、問題なのは留学した後である。要は、日本に戻ってから勤務先がないのである。

 

そういえば、iPS細胞を樹立した山中先生ですら、米国のグラッドストーン研に留学した後、日本に戻ってきて勤め先がなくて困ったという話を聞いたことがある。

同先生は自分の作ったマウスを米国から持ち帰ったため、まさにそれがネズミ算式に増え、半年ほどで数百匹になり、餌代だけでも大変だったとのこと。

大学や研究機関に何件も応募したが、どこも採用してくれない。研究者をあきらめて医師に戻ろうとまで思ったらしい。

だが、最後の最後に奈良の先端科学技術大学院大学が同先生を准教授として拾ってくれ、その後の研究者人生がつながったとのことである。

 

私は山中先生の話は何度も聞き、同先生が研究者としても人間としても立派なことはよく知っているつもりだ。

そんな先生ですら困るくらいだから、やはり研究者って大変なんだなあと思ってしまう。

 

俗に言う「ポストドクター(ポスドク)問題」である。

つまり博士課程を出て学位をとっても、その後アカデミックの定職につけず、厳しい環境で3~5年単位で就職を繰り返さねばならないのである。

その間に経験を積み、何とか正職員としてのポストをつかみ取るのであるが、競争は厳しい。

このため、ポスドクの数は、一時1万6,000人ほどまで増えたが、今や減少して1万4,000人程度になっている。

そんな厳しい環境の中で、一時期でも日本を離れると、戻ってきて職が見つけられないという事態も起こる。

そうして年をとっていき、高齢のポスドクになり、安月給や、職にあぶれ、自殺までする者もいるということである。

(この問題はまた別途取り上げたい。)

 

ただ、やはり私が羨ましいなと思うのは、山中先生が「仕方がないから」医師に戻ろうかと思ったことである。

まあ、医者はつぶしがきくのである。

 

ただ、それだけではない。(基礎)研究を続けるのには、一般的に医者というのはとても有利なのだ。

そもそも、医学部を出たあと、大学で基礎研究を地道に続けようとする者はほとんどいない。

だから、医学部は、研究室に残ってくれる者がおらず、後継者がいなくなり、知識の継承問題が起きている。

つまり、「ポスドク問題」などは、はなから存在しないと言ってよいだろう。

 

それから、医学部の研究室には、他の学部からもいろいろな研究者が来て研究をしている。

それぞれ、自分の知識に応じた研究を行い、優れた成果を挙げる者も多い。

だが、だからと言って、研究室のポストが空いた時、それに採用されるのは、きまって医学部の出身者なのである。

 

以前、これはどうしてかと、私は医学部の先生に聞いたことがある。

そうすると、その先生は答えた。

「それは仕方ない。医学部では教育も大切だから。医学部を出ていないと、知識に偏りがあり、学生を指導できないからだ。」

・・・・う~ん。とってつけたような答え方だったような気がする。

 

まあ、そんな医学部の研究者はね留学するにしても、奨学金をあくせく申請する必要もなく、

提携先の海外の研究室に行き、そこで生活費等も面倒を見てもらえる場合も多い。

そして留学後は、再び元の研究室に戻ってこられるのである。

 

ああ、医師の研究者は羨ましい。

まっ私が医学部にこの年で入ったとしても、留学なんぞ夢のまた夢だが(70歳くらいで留学するのは面白いかもしれないが)・・・・。