不老不死の薬とファインマン

東大で専門課程に進学した私だが、少し方向性が定まってきた。

それは「不老不死の薬を作る」というものだった。

また途方のないことを・・・・と思われるかもしれない。

だが私は結構真剣だった。

両親が年をとって死んでいくのが耐えられなかった。

人間は、せっかく富や名声を築き、愛情を獲得しても、死によってそれが一瞬のうちに崩れ去ってしまう。

不老不死こそ、自分の究極の願いだったのだ。

 

私は東大の理科Ⅰ類に入ったが、そもそも数学が得意だというだけでそこを選択したのは間違いだった。

ただ、私は考えた。

不老不死の薬を作るにはありとあらゆる知識が必要だ。

このためまず周辺の知識を十分身につけたうえで、総合的に考えていくことが必要だ。

人体は細胞からなり、細胞はさらに小さな原子や分子からなっている。

年をとるという原理を原子・分子レベルで根本から解決していけば、不老不死の薬にたどりつけるのではないか。

そのためには、進学振り分けで数学、物理、化学、生物を総合的に身につけることのできる、この学科を選択したのは決して間違いではなかった、と思った。

 

私の親友であるUは、工学系の学科に進学していた。彼には励まされもしたが、一緒にがんばろうという気持ちもあった。

私は物理について、彼と一緒に「ファインマン物理学」を競争して読んだ。

この本を読んで、ファインマンは天才だと思った。彼はいろいろな原理を、全部自分の頭で考え、組み直していた。

私もファインマンのように頭がよくなりたいと思った。

勉強とはがむしゃらにやるものだと思っていたが、この本を読んで、はじめて勉強とは真理を自分で考えつつ求めていくものだと思った。

ファインマン物理学」は1巻から5巻まであり、面白かったがいつも途中で挫折したそそのたびに一から読み直した。

最後に読破できたときはすがすがしい気持ちになれた。