漢字練習ノート七冊半!
漢字テストで名前を書き忘れ、零点をとった私に、先生はこう言ったのだ。
「あなたは罰として、冬休みの間、教科書に出てきた漢字を全部、10回ずつ書きなさい。」
私はげっと思った。これまで習った範囲は相当ある。当時の教科書は上下巻になっていたが、上巻全部と下巻の3分の1までやらねばならない。
そんな理不尽な宿題を出した先生に対し、私は抵抗することもしなかった。
その年の冬休みは私にとって、漢字との格闘だった。
朝から晩まで、ノートに漢字を書いていった。しかも10個ずつ。
同じ漢字が出てきても、それでも繰り返して書いた。
簡単な字など、1000字くらいは書いたかもしれない。
ノートが1冊、2冊と進んだ。
紅白歌合戦のときもずっと書き続けた。
正月を迎え、三が日も過ぎた。でも終わらない。
とうとう、三学期が始まる前の日の夜になった。まだあと少し残っていた。
私は、書いているうちにいつのまにか眠ってしまっていた。
朝、起きて、「しまったあ。」と叫んだ。
だが、ノートを見ると、全部、最後まで書かれていた。
母が私の代わりに書いてくれたのだ。
これまで一度も「勉強しろ。」とも言わず、助言も与えなかった母が、
はじめて私の勉強を手伝ってくれていたのだった。
ただ字体はちょっと違っていたが・・・・。
合計、ノート7冊半になった。
私がそれを持って学校に行き、先生に見せると、先生は驚いた顔をした。
「まさか、本当にやったの・・・・。」
冗談じゃない、命令したのはあんただろ、と言いたくなった。
でも、このことがよい経験になったのは間違いない。
おかげで漢字にはすごい自信が持て、3学期には、見事漢字テストで堂々クラスで1位になった。
そして、もう一つよかったこと。
私はその後、いくつも試験を受けたが、名前を書き忘れたことは一度もない。
ショック療法になったのだろう。